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ていねいでない暮らし

【本】『ヒルビリー・エレジー』(2017年)の感想など<その1>

こんにちは、ずず(zuzu)です。

以前ブログに書いたことがありますが、アメリカで'貧乏白人'と呼ばれる人々のことを知りたくて、こんな本を読みました。

ドナルド・トランプが大統領になれたのは、白人労働者階級からの支持を得たからだとして、話題になった本だそうです。

まぁ、この本を読んだのは、リベラルのインテリ層だと思いますが(笑)

ソフトカバーで418ページもある翻訳本を読み通す自信がなく、図書館で借りることにしました。

図書館の検索機で"蔵書あり"と出たので、英米文学の書架を探しましたが、見当たらないのです。

プリントアウトした図書情報をよくよく見ると、'社会学'に分類されていました。

思ったより活字が大きくて読みやすく、とてもわかりやすい翻訳で、むさぼるように読みました。

その割には、読み終えるのに1週間以上かかってしまいましたが(笑)

 

著者のJ.D.ヴァンス(38)は、オハイオ州ミドルタウンというラストベルト(さびついた工業地帯)出身で、地元の高校を卒業した後、海兵隊に4年勤務し、オハイオ州立大学を卒業後、イェール大学ロースクールに入学、弁護士資格を取得して、会社を経営しています。

そして現在はなんと、オハイオ州選出のアメリカ上院議員に立身出世!

共和党でトランプの後援を得ての当選らしいです…

髭をたくわえ、本のカバーの顔写真とは別人で、すっかり垢抜けています(笑)

 

この本で定義されるヒルビリーとは、ただの田舎者を指すのではなく、スコットランドにルーツを持つ、プロテスタントアイルランド人(スコッツ=アイリッシュ)で、18世紀にアパラチア山脈付近に移住した人々を言います。

著者はその子孫で、曽祖父母の家はケンタッキー州東部のアパラチアにありましたが、祖父母はよりよい暮らしを求めて、ミドルタウンの製鉄所(自動車のボディを作るような工場)に勤めるため、駆け落ち同然で転居しました。

著者は、結婚と離婚を繰り返し、オピオイド中毒となった不安定な母と暮らしながらも、母方の祖父母に見守られながら成長しました。

祖父母は典型的なヒルビリーで、特に祖母は12歳のときに泥棒を銃撃した気性の荒さを持つ、くわえタバコのべらんめぇ調で、曲がったことが大っ嫌いな人物です。

祖父は大規模な製鉄所で真面目に働いたため、生活は余裕がありました。

しかし、祖父の女性問題が原因かどうかは不明ですが、祖母は家事を放棄し始め、家の中はゴミとケンカでいっぱいになりました。

お酒を飲んで帰ってくる祖父と、応戦する祖母のバトルを、著者の母は身を隠して耐えていたそうです。

祖父母は晩年、落とし所を見つけたのか、別居を選択しながら毎日顔を合わせる、落ち着いた生活を送りました。

祖父母は孫にはとても愛情を注いでいましたが、自身の子育て中は生活していくだけで精一杯だったのかもしれません。

 

少年時代の著者は、祖父母の家に行くことで心の安定を取り戻していました。

読み進めていくうちに、祖父母は素晴らしい人だったという錯覚を起こしてしまったほどです。

ですが、著者の母親がなぜ高校在学中に妊娠して、卒業後間もなく出産したり、パートナーが頻繁に入れ替わり5回も結婚と離婚を繰り返したのか。

出産後に大学に進学して看護師の資格を取得し、看護師として働いていたのに、なぜオピオイド中毒になってしまったのか。

疑問はそこでした。

 

後に祖父が"俺のせいだ"と言ったそうですが、家庭がゴミ屋敷で、お酒や女性問題で両親が大ゲンカしている家庭では、なんとか強く生きられる子(母の兄や妹)もいれば、母のように精神のバランスを崩してしまう子もいると思います。

これが'心理的虐待'、面前DVなんですね。

心に負った傷に一生苦しみ続けるのが、著者の母なんだと思います。

'心理的虐待'の恐ろしさを、この本から知ることになるとは思ってもみませんでした。

zuzuzblog.hatenablog.com

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またね。